これは、その名も「奇跡の果実(ミラクルフルーツ)」(Synsepalum dulcificum、別名Pouteria dulcifica)と呼ばれる西アフリカ原産のアカテツ科の植物です。学名の記載は、1852年で、19世紀の後半には、西欧圏で知られていたようです。別名の属名Pouteriaは、RichardellaやBumeliaという異名で呼ばれることもあります。1.5mくらいの直立性の小木ですが、原産地では5m程度になるものもあるようです。15℃以上あれば、一年中、長さ1cm足らず、太さ2mm程度のめしべの突き出した白い花が葉腋に沢山咲きます。さらに気温が高いと、いくつかの花は、ラグビーボールを細長くした、1.7〜2.0cmの赤い実になります。表面はツヤがあり、アオキやコーヒーの実のようです。下の写真は、蕾から実が熟していく過程を写したものです。私のところでは、樹高50cm程度で実がなりだしました。
この実にはミラクリンという191個のアミノ酸からなるタンパク質が含まれていて、この実を人間が食べると、味覚に劇的な変化をもたらすことが知られています。ミラクリンは舌の味覚を感じる部分の細胞の膜にくっついてしまいます。そして、ミラクリンが酸などに含まれる水素イオン(H+)を得ると舌の甘味を感じる部分を刺激して、酸味を甘味として感じるようになります。したがって、この果実を食べると、どんなものでもすごく甘く感じるようになります。例えば、レモンは甘いグレープフルーツのように、無糖のヨーグルトは砂糖を沢山入れたもののように、梅干は蜂蜜で甘味をつけたような味に、普通のトマトは高糖度トマトのように、それぞれ、感じてしまいます。ミラクリンは、温度が高いとすぐに変成(変化)してしまいます。効果は、30分程度しか続かないそうで、熱い紅茶やコーヒーを飲むと、さらに短くなってしまいます。この効果は、糖の摂取を制限されている糖尿病の患者などに朗報で、化学合成などの試みがされています。ミラクリンの構造と甘味を感じるメカニズムを研究したのは、横浜国立大学の栗原教授です。ミラクリン以外にも、植物由来の似た働きをする物質に、クルクリンやストロジンが知られています。また、逆の、甘味の感覚を抑制する働きのある物質として、ギムネマ酸、ジジフィン、ホダロシド、グルマリンが知られています。
左の写真は、果実にクルクリンを含むクルクリゴです。ヤシのような姿ですが、熱帯アジア産のキンバイザサ科の植物です。クルクリンは、黄色い直径1.5cm位の6弁の花を咲かせたあとにできる、5〜7mm位の先端が細長くくびれた果実に含まれます。これは、ミラクリンと異なり、水までも甘く感じるといわれています。栽培は、温度さえ保てば、日陰でも育ち、ヤシの幼苗のような縦に折り目の入った葉を次々と出して大きくなり、子苗をどんどん出して増殖し、比較的簡単です。ただ、葉がだらしなく長くなりやすく、観葉植物としてそれほど価値があるものではないようです。俗にクルクリゴヤシなどとも呼ばれています。
下の写真は、ミラクルフルーツの蕾から結実までを順に撮影したものです。白い花はめただず、全開しませんが、かなり強い良いにおいを出し、温室内で咲いているとわかるほどです。
果実は、薄くて硬い赤い果皮に包まれ、この果皮は簡単に手でむくことができます。コーヒーの実の皮のようです。内部は、白い繊維状の果肉で、うすら甘くて酸味があり、感じとしてはライチーの味を薄くしたようです。その中には、大きな種子が1粒入っています。下の写真を参照してください。収穫した果実は、常温で放置すると、ほどなくミラクリンが変成して味覚の効果がなくなってしまいます。一般的には、冷凍保存されるようです。最近では、大手果実店で冷凍果実が市販されているようですので、もし手に入れたら、皮をむいた果実を舌の全面に転がすようにしてしばらく舐めています。やがて、味がしなくなったら、果実を吐き出して、実験に取り掛かってみてください。たぶんびっくりすると思います。
栽培は、酸性土壌で栽培することが望ましく、用土は、ピートモスと鹿沼土の混合など、ブルーベリーの栽培の要領です。寒さには弱く、7℃以下になると枯死してしまいますので、冬季は保護が必要です。日照は、ほぼ直射で平気ですが、夏場の若干の遮光を勧めている記述もあります。また、果実が熟し始めたら、雨に当てないように栽培しないと、果実が裂果する場合があります。増殖は、挿し木か実生です。熱帯植物の常として、種子の寿命が短く、もし、乾かしてしまうと、2週間程度で死んでしまいます。取りまきが良いでしょう。冷凍してしまった種子は、発芽しません。栽培法はカリフォルニア希少果実生産者会のページが詳しいです。
■パッションフルーツ
この変わった花は、何だと思いますか。これは、クダモノトケイ(パッションフルーツ、Passiflora edulis、トケイソウ科)の花です。最近は、デジタル時計が多いので、アナログ時計には縁遠い人もいるかもしれません。それはさておいて、何と時計の文字盤に似ている花なのでしょうか。先端の3裂しためしべは、時分秒の時針を表し、その下の5本のおしべは、文字盤を表し、その下のひげ状の副花冠は、秒単位の目盛、そして、その下の5枚づつの花弁とがく片は、時刻の目盛を表しているように見えます。花の直径は、5-10cmくらいで、花の寿命は一日です。クダモノトケイは、17世紀初期にスペイン人宣教師に、ブラジル南部で発見されました。キリスト教の信仰厚い欧米人は、この花の形状をキリストの受難にみたてました。すなわち、十字架に打たれた釘、茨の冠、弟子達、というように。そこから、受難の花(Passion flower)と名づけられました。この種類は、果実が成るので、英語圏ではパッションフルーツと呼ばれています。
花が萎むと、白緑色の硬い果皮をもった果実が成長します。果実は、5-10cmくらいの長さに成長すると、紫や黄色に色づきます。関東で栽培すると、4-5月に開花したものが、8-9月に収穫できます。さらに、9-10月に開花して、着果しますが、冬になり、気温が足りずに、その時期の果実は熟さず食用にするのは無理です。開花から収穫までは、気温により異なりますが、およそ3ヵ月を要します。下の写真は、8月頃の着果状況です。果実は、色づくと、やがてひとりでに果梗を付けて落下します。この自然落下したときからが食べ時です。放置しておくと、色が濃くなり、しわが入ってペコペコになりますが、それでも食べられます。果実の皮は硬いので、中身が影響を受けることはほとんどありませんし、地面に落ちたままでも、虫が穴を開けることはありません。
上の写真のように、ナイフで半分に切断すると、オレンジ色をしたゼリー状の果肉が黒い平べったいドロップ状の種子を包んでいる果肉が現れます。これをスプーンですくって種ごとぱりぱりと食べてしまいます。とても爽やかで甘いフルーツの香りがすばらしく、味も、酸味がやや強いですが甘味も強く、爽やかな風味です。この香りは、トロピカルフルーツの雰囲気を出すために、香り付けにも使われます。食べたことのない人でも、はじめてこの果実を食べる時に、ガム、ジュース、キャンディなどでこの香りを嗅いだことがあるのを気づく人も多いはずです。リンが100g中に61mgと豊富に含まれ、ほかに、ビタミンC、ニコチン酸なども比較的含まれています。
植物体には毒性のある物質が含まれているようで、栽培していても害虫などの被害はほとんど受けません。果実の中は有毒でなくて食べられるというのも、外敵の多い熱帯で生存してきたためかもしれません。果実を食べて子孫を残して欲しいと、クダモノトケイが微笑んで許してくれているようですね。栽培は、寒さにやや弱いので鹿児島県より北では、冬季に何らかの保護が必要です。つる植物で、巻きひげで何かにつかまって伸びていくので、棚や支柱が必要です。十分な日照と、20-30℃の温暖な気温、多肥栽培が、豊作の秘訣です。繁殖は、種子か挿し木です。病虫害の心配がほとんどなく、花も芸術的で、しかも、こんなにおいしい果実なのに、あまり栽培されていないのがちょっと寂しいです。
■チェリモヤ
緑色のゴツゴツした果実は、チェリモヤ(Anona cherimola、バンレイシ科)とよばれる、南米アンデス山脈原産の植物の実です。パインアップル、マンゴスチンと並んで、世界の3大美果と呼ばれています。別名、アイスクリームの木と呼ばれていて、果実の王様がドリアンで、果実の女王様がマンゴスチンとするならば、果実のプリンセスと呼ぶにふさわしい、おいしい果実です。
トロピカルフルーツの仲間なのですが、30℃近い高温には弱い作物で、果実も小さくなってしまいます。鉢植えで育てると1m位の高さで結実します。地面に植えると5m位の高さに育つ果樹です。葉は、カキの葉に細かい毛を生やしたような感じで、やわらかい手触りです。木を剪定したり、葉を摘み取ったりすると新芽を出して、上のような変わった花をつけます。バナナのむいた皮のような感じの白緑色です。この花は、変わった性質を持っているので、それを考えて受粉しないと、果実をつけません。それは、花の咲き始めには、めしべが成熟しているのですが、花が全開になったときには、おしべが成熟しているのです。おしべが成熟したときには、めしべは花粉の授精能力を失っています。だから、よく咲いている花から花粉を採取して、別の開きかけの花をこじ開けて受粉しないと結実しないのです。
日本では、1952年にアメリカから静岡に導入されたのが最初のようです。現在、和歌山県と静岡県でハウスなどで少し生産されています。夏の暑い地方では、熱さのためうまく栽培しにくいようで、仲間のバンレイシ(シャカトウ)や雑種のアテモヤが栽培されています。一般家庭でも、30cm位の鉢に植えて、冬は玄関など0℃以上のところに避難させてやれば、栽培できると思います。この場合、開花は、6月頃で、実が熟すのが11月ごろになるでしょう。
下の写真が熟した果実とそれを半分に割ったところです。11月ごろになったら、木から自然に果実が落下します。それを暖かいところに3〜4日置いておくと、表面が弾力を持つようになります。この時が食べごろですので、冷蔵庫で一日冷やして、包丁で切って、スプーンでメロンを食べるようにして食べます。それ以降保存しておきたいときには、冷凍すると、本当にアイスクリームのようになります。写真は、500g位の重さで、標準的なものです。果実の肉質は、完熟した西洋ナシのような歯ざわりです。味は、とても甘味が強く、ある程度の酸味があり、フレッシュなカスタードクリームのようで大変おいしい果物です。ただ、味が強すぎて、ばくばく沢山食べると飽きてしまうかもしれません。一度は食べてみることをお勧めします。きっと、こんな果物もあるんだという、楽しい感動を与えてくれるでしょう。
■ヘビウリ
上左の写真の種は、形がツルレイシ(ニガウリ)のような形で、色と風合いがツノゴマの種子のような茶色かがった消し炭のようです。これが、熱帯地方で野菜として良く栽培される、インド原産のヘビウリ(Trichosanthes anguina、ウリ科)の種子です。別名、ゴーダービーン、タイではボワップ・グウ、シンガポールではペトラ・ウラ、などとも呼ばれているようです。十分暖かくなってから播種すると、発芽してつるが伸びていきます。気温が高くなると成長は旺盛になり、やがて、上の写真のような繊細なとてもきれいな形の花を咲かせます。日本にも自生しているカラスウリ(Trichosanthes kirilowii)にそっくりで、近い仲間であることが分かります。やがて、緑色に白い線状の模様が入った細長い果実ができます。下左や下中の写真のように、長いものでは、1.5m位に伸び、しかも、上右の写真のように先端は蛇がとぐろを巻くようにカールしたりもします。ここから、ヘビウリと名づけられました。英名もSnake Gourdで同様です。系統によっては、へびのように細長くならず、キュウリのように短く太くなるものもあります。熟すと、ニガウリのようにオレンジ色になり、果実を開くと種子が赤いゼリー状の仮種皮に包まれ、それに甘みがあることも同じです。ニガウリと違うところは、未熟な果実には苦味がほとんど無いことです。インドでは、カレーに入れる野菜として使われます。苦味はありませんが、果実(特に表面)には独特の臭気があり、未熟な果実を皮をむかずにキュウリのように生食するのはおいしくありません。料理法に工夫が必要です。臭みを消すようなスパイシーな料理法が適しています。右下は、皮ごと輪切りにした未熟果を唐辛子と豚肉と一緒にごま油で炒めてから、ナンプラー(魚醤)で味付けした調理例です。このようにしたり、カレーの具に使えば、おいしく食べられます。皮をむけば、いろいろな料理に使えるかもしれませんが、細長いものは、皮をむくと実が少なくなってしまいます。もっとも、この臭みは、コリアンダー(パクチー)のように、慣れると病み付きになるようなものなのかもしれません。夏の日よけに栽培して、繊細な形の白い花、そして、不思議な形の果実を楽しみ、珍味を味わってみるのも良いものです。
沖縄や宮崎鹿児島の人は、わかると思いますが、この緑色をしたヒキガエルか恐竜の背中のようなでこぼこしたものは何でしょうか。これは、ツルレイシ(Momordica charantia、ウリ科)という野菜になる果実の表面です。インド東部から東南アジアの原産といわれる、別名、ニガウリやゴーヤと呼ばれるこの野菜は、何と苦味を味わう野菜なのです。人間をはじめとする動物は、自分の身体を守るために、毒のあるものには、苦味があることを学んできました。子供が苦い薬をいやがるのも、本能的に毒を避けるという動物の性質だと思います。しかし、この野菜は、熱い地方を中心に大変良く食べられてきました。
十分に成長した緑色または白色の未熟な果実を収穫して、中の種子とパルプ状の部分を除去して、調理します。有名なのは、肉類と豆腐と一緒に油いためしたゴーヤチャンプルー、ナスと一緒に油味噌で煮込み小麦粉でとろみをつけた小練り、薄く切って茹でて鰹節とポン酢で食べるおひたしなどがあります。どれもが、苦い料理です。苦くて美味しいといって、好きな人は食べます。ジュースで飲む人もいます。ケールの青汁もびっくりですね。最初苦いと敬遠していた人も、食べなれると病みつきになり、暑くなるとまた食べたくなります。
苦味の成分は、モモルディシンで、解熱、駆虫、利尿などの薬効があり、まさに、暑いとき向けの野菜です。また、ビタミンCの含量がとても高いことも特徴です。果実の形は地域によって、細長いものあり、ずんぐりしたものあり、緑色の濃いものあり、白いものあり、大きいものあり、小さいものあり、さまざまです。日本で最も古い記録としては、1612年には鑑賞用として導入されていたようです。
雄花と雌花が別で、黄色いかわいい花が咲くと、20日〜1ヵ月で右のように収穫できる大きさになります。さらに、放置しておくと、黄色になり、そしてオレンジ色になって、バナナの皮がむけるようにはじけてしまいます。中から、赤いゼリー状の果肉に包まれた種子がたくさんこぼれ落ちます。こうなると、苦味はなくて、うすら甘い味になります。タネの形も大変奇妙で、まるでカメの甲羅のようです。葉や茎にも強烈な苦味があるためか、果実以外にはほとんど害虫はつきませんので、同じウリ科のキュウリよりは暑い地方での栽培が簡単です。ほかに、ウリ科の変な果実としては、まるでへびのように細長い果実がのたうちまわって絡まっていきカレー料理などに使うヘビウリ(Trichosanthes anguina)や、オレンジ色のとげとげの爆弾のような形で中がエメラルドグリーンのつぶつぶの果物のキワノ(Cucumis metuliferus)などがありましょう。
■カニステル
カニステル(Lucuma nervosa、旧名:Pouteria campechiana)は、クダモノタマゴ、エッグフルーツなどと呼ばれ、南米北部原差のアカテツ科の熱帯果実です。とても食感が変わっていて、目隠しして食べさせられたら、果実とは誰も思わないでしょう。木は10mを超える大きさになりますが、鉢に植えたり、接木をして栄養成長を抑制してやると、2mぐらいで開花するようになります。果実は、品種や系統によって少し異なりますが、先端がとがっていて、紡錘形から栗の実型で、長さは、18cm〜6cm位です。熟してくると黄色からオレンジ色を帯びます。
この果実を食べるときの注意があります。果実を触ってみて硬い場合には、追熟が必要です。暖かい部屋に置いておいて、触ってやわらかくなるまでおいておきます。黄色い色がついてから、20℃くらいの部屋で1週間ぐらいです。下の写真のようにへたの部分に塩を盛り、茶碗に立てておくと良いといわれています。果実が柔らかくなり、割れひびが入ったら食べごろです。冷蔵庫に半日ぐらい冷やして食べるとおいしいです。このような追熟をしないで、果肉がニンジンのような硬い状態で食べると、味はまるで渋柿のように渋くひどい目にあいます。
手などで皮をむいて、半分に切ると、1個から数個の大きな茶色い光沢のある種が中心にあり、その周りに柔らかい粉質の果肉が取りまいています。味は、和菓子の黄身餡にそっくりでとても甘いものです。匂いは、熱帯果実独特のエステル臭があります。しかし、カニステルを知らない人に目隠しして食べさせれば、「ゆで卵の黄身とあんこを混ぜたものだ」と言うでしょう。食べていると、日本茶が欲しくなり、これがくだものといえるのか?と思わせるちょっと変わった熱帯果実です。日本でも、沖縄県で栽培されていますので、春先から夏にかけて沖縄に行ったら市場で見つけてみて追熟してぜひ食べてみてください。また、後に残ったタネもまくと簡単に発芽します。苗の雰囲気はアボカドに少し似ていて、観葉植物としても楽しめますので、試してみると良いでしょう。最低3℃程度で越冬します。