ふわふわ植物


 人間が植物を楽しむには、色や形などの視覚を通じて、香りという嗅覚を通じて、そして食べるという味覚を通じて行うことが多いです。しかし、このほかにも、もっと原始的な感覚、チクチクやフワフワなどの触覚を通じて楽しむことができる植物もあります。小さな子供がぬいぐるみやタオルケットを手放せないのは、形や臭いだけでなく、触り心地、つまり、触覚が多く影響しているのではないでしょうか。手触りというのは、理性的・先端的というよりは、本能的・原始的な感覚で、言葉で表現するのは難しいと思います。これから紹介する植物は、手触りで楽しめ、説明を抜きにして「とにかく触ってみでごらんなさい」と勧めたいものです。私の経験でも、あまり植物に興味が無い、つまらなそうな顔をした人でも、これらをひとたび触ると、ほっとしたような顔になったり、とろけるような感嘆を漏らすようになったりする場面に良く遭遇しました。香りや味の体験だけでなく、触る体験を活かした植物園というのも、面白いのではないでしょうか。
ラムズイヤー(Stachys byzantina)  アカリファ・キャットテール(Acalypha hispaniolae (A. reptans?))
ラグラス・バニーテール(Lagurus ovatus cv. 'Bunny Tail')  まず一番に触って欲しいのが、左上の写真の中央アジア原産のシソ科のラムズイヤー(Stachys byzantina)です。和名のワタチョロギが示すように、おせち料理の黒豆の中に飾りで入れる梅酢で染めた巻貝の形をした「チョロギ」に近い仲間です。しかし、子羊の耳という意味のラムズイヤーのほうがぴったりです。ほんとうにふわふわで、大変良い手触りです。高温多湿と日陰に弱いので、やや栽培しにくいのですが、それでも一度は触るために育ててみる価値はあります。
 上の写真は、キャットテール(Acalypha hispaniolae (A. reptans?))と呼ばれているインド原産のトウダイグサ科の熱帯植物です。これは、温度があれば、写真のような花穂を次々と出します。これも、少しべたべたした感じはありますが、やはり結構手触りの良いものです。子猫の尻尾という感じで、名前に合っています。茎が下垂するのでつり鉢に仕立てられることが多いです。寒さから保護してやれば、栽培はとても簡単です。
 左横の写真は、地中海地方原産のイネ科のラグラス(Lagurus ovatus cv. 'Bunny Tail')のバニーテールという品種です。本当にウサギの尻尾のような見るからにふわふわとした花穂をつけます。摘み取って、ドライフラワーにすることもできます。ネコジャラシと呼ばれるエノコログサに似た感じですが、もっと繊細です。

ケムリノキ・ヤングレディ(Cotinus coggygria cv. 'Young Lady')  ケムリノキ・ヤングレディ(Cotinus coggygria cv. 'Young Lady')
ケムリノキ・ヤングレディ(Cotinus coggygria cv. 'Young Lady')  左上からの3枚の写真は、ハグマノキ、スモークツリーなどとも呼ばれるケムリノキの品種ヤングレディ(Cotinus coggygria cv. 'Young Lady')です。遠くから見ると、もやもやした煙を纏っているように見えるのでケムリノキとかスモークツリーと名付けられました。また、ハグマというの動物の毛から作ったふわっとした仏具である払子(ほっす)のことです。このもやもやしたのは花ではなく、花の柄に細かい毛が密生しています。上の写真が開花時の様子で、これから毛に成長する部分が赤く色付いていて、花柄部分であることがわかります。また、左横の写真は、穂を拡大したもので、腎臓形をした小さな実が数個付いていることがわかります。ヤングレディという品種は、通常一年に一回しか開花しない性質を、何回か返り咲きするようにし、さらに、草丈も1m以下の低い状態で開花に至るものです。鑑賞できる期間が長いので場所に制約のある一般家庭の庭にはお勧めの品種です。触るとフワフワして手触りが良いのですが、この植物はウルシ科なので、もしかしたら皮膚に何らかの影響がある敏感な人がいるかもしれません。

マミラリア・白星(Mammillaria plumosa)  エーデルワイス(Leontopodium alpinum)
ツルビロードサンシチ(Gynura aurantiaca cv. 'Purple Passion')  左上はサボテンの仲間である、マミラリア属の白星(Mammillaria plumosa)です。白くて柔らかそうに見えても、トゲトゲ、チクチクする痛い刺を持つことが多いサボテンの中で、多少ごわごわした剛毛の感はしますが、触っても全く痛くないサボテンの一つです。羊の背中の毛のようです。冬に、その白い毛を破って、ほんのりピンクを帯びた白い花を控えめに咲かせるところも、派手な色の花を咲かせるものが多いサボテンの中で、奥ゆかしさを感じて白眉です。
 上は、一度は名前を聞いたことがあるキク科の山草、エーデルワイス(Leontopodium alpinum)です。白い色は、実は細かい毛が沢山集まっていて、触るとフェルトのような感じです。この毛は、動きにくい空気の層を葉の表面に作って断熱層により寒さから植物体を保護し、同時に白い色で数の少ない昆虫を花に誘う役割をしているようです。高山植物で栽培しにくそうに感じますが、種子で何代にもわたって日本で栽培されてきましたので、ある程度気候にも順応し、枯れてしまう程弱くは無いようです。根詰まりしないように、毎年早春に水はけの良い土に植え替えてやれば、美しい花を毎春咲かせ続けます。
 左横の写真は、ツルビロードサンシチ(Gynura aurantiaca cv. 'Purple Passion')という、やはりキク科の植物で、ふわふわ植物には白色が多い中で、赤紫色をしたものです。毛に色が付いていて、葉の色は緑色なので、光の反射や、見る角度によって微妙に色が変化し、とても美しいものです。名前が示すとおり、ビロードのような手触りです。熱帯植物ですので、霜にあたると枯れてしまいます。冬は室内で保護します。

アメリカワタ(Gossypium hirsutum)  アメリカワタ(Gossypium hirsutum)
アメリカワタ(Gossypium hirsutum)  これは、お馴染みのアオイ科のハイビスカスの仲間、ワタです。ワタには、アジアワタ、アメリカワタ、オーストラリアワタなど幾つかの種があるようです。写真は、アメリカワタ(Gossypium hirsutum)として種子を入手して育てたときの写真です。上の写真のように黄色い花が咲いた後、朔果が左横の写真のように実り、そのあと開絮(かいじょ)して、左上のように綿が出てきます。この綿を触ると、中に硬いつぶつぶがあり、それが種で、種の周りにある毛が綿であることがわかります。切り取って花瓶に挿せば、触って楽しめるドライフラワーの出来上がりです。


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