石になった植物


リトプス日輪玉(Lithops aucampiae)メセン(コノフィツム)(Conophytum sp)  動物は、植物を食物にして生きる従属栄養です。したがって、動物は、動物か植物を食べなければ生命を維持できません。砂漠や乾燥地帯など、植物が成育するのに過酷な環境では、植物は急に成長することは出来ず、何十年もかかってゆっくり生長します。こんなに苦労して生活しているのに、動物に一瞬のうちに食べられてしまったら、たちまち、絶滅してしまうでしょう。こうなるのを防ぐために、毒を持ったり、刺や硬い表皮で保護したり、地下に大きな球根を持って食べられても生き残れるようにしたり、いろいろな防衛策を植物は取っています。
 これもそのひとつ、擬態です。左の写真は、リトプス(Lithops sp)の写真ですが、たとえば、この植物が鉄分を含んだ赤茶けた砂礫地帯に生えていたら、石ころと簡単に見分けがつかないのではないでしょうか。左側は、メセン<(Conophytum sp)と呼ばれる植物です。栽培品できれいなのですが、原産地では土砂にまみれて、しかも埋もれていたりするので、やはり、石ころと見分けがつきにくく、また、岩の割れ目では掘り出して食べるのにも苦労するでしょう。

メセン(コノフィツム・鳩笛)(Conophytum cvs.)  これらの植物はアフリカ原産で、半年ぐらい生育すると、半年ぐらいの生育に適さない時期は休眠してしまいます。右の写真は、休眠している状態です。まるで枯れてしまったように見えますが、中で、新しい植物体が育っています。調子がいいと、ひとつが2から3個に殖えます。休眠しているときには、ますます、石ころに紛れて見分けがつきにくいのです。

メセン(コノフィツム・鳩笛)(Conophytum cvs.) メセン(コノフィツム)(Conophytum cvs.)  しかし、休眠から覚めた直後に、色とりどりの美しい花を開きます。花の色は、白、緑、黄色、オレンジ、赤などがあります。また、夜だけ開く種類もあって、これは芳香を持つものが多いのです。この時には、少々危険を冒しても目立たなければ花粉を媒介する昆虫を引き付けられないので、体に似合わない大きさの花を精一杯咲かせています。日本では、9月から11月に開花します。葉が極端に肥大して、茎や葉柄や節なとがほとんど区別できず、石ころのように擬態している姿は、とても普通の植物という常識からは想像できません。大変小さな植物で、栽培も簡単なので、秋から晩秋の日だまりの窓辺において、じっくり観察してみるのもまた楽しいと思います。
リトプス日輪玉(Lithops aucampiae) リトプス朱唇玉(Lithops cvs.) コノフィツム・ルゴサ(Conophytum cvs.)
幻玉(ゲンギョク、Dintheranthus wilmotianus) 帝玉(テイギョク、Pleiospilos nelii)
 上の写真は、アフリカ原産のまた違った仲間です。左上は、幻玉(ゲンギョク、Dintheranthus wilmotianus)と呼ばれる灰色かがった植物です。中心から新しい球体が育ちつつあります。右上は、帝玉(テイギョク、Pleiospilos nelii)と呼ばれ、緑白色に黒い斑点があります。蕾が出てきていて、これからオレンジ色の花を咲かせるところです。以上の植物は、全てツルナ科に属しています。
京雛玉(キョウスウギョク、Argyroderma framesii) ヘッレイ(Adromischus herrei) 宝輝玉(ホウキギョク、Muiria hortenseae)
 引き続いて、上の写真は、左がアルギロデルマの仲間の京雛玉(Argyroderma framesii)です。白緑色のつや消し肌で、ピンクのきれいな花を1年に一回咲かせます。一方、中央はアドロミスカス・ヘッレイ(Adromischus herrei)という、まるでコンペイトウの出来損ないのようなゴツゴツの肌で、やはり、植物というよりは岩のようです。これは、ベンケイソウ科で、アフリカ原産です。右は、宝輝玉、ムイリア・ホルテンセアエ(Muiria hortenseae)です。不規則な形状の緑色をした球体です。球体には細かいうぶ毛が密生しています。これが植物かというような不思議な形態です。本種の栽培にかけては達人の橋本幹郎氏によると、成育期には30倍に希釈した海水を与えるのが良いそうです。私のところもそれで栽培していますが、何とか育っているようです。
 下の植物も変わっています。不規則なイボイボがあり、植物じゃないような感じです。大きさは、直径3cm位です。成熟すると、縦に細長く立ち上がり、ところどころから突起が現れて、そこに数輪の花をつけ、2本の角状の朔果を付けます。これは、ガガイモ科のシュードリトス・スファエリクム(Pseudolithos sphaericum (syn. Pseudolithos migiurtinus))と呼ばれるソマリア原産の植物です。まるでヒスイでできた細工物の宝玉のようです。ただ、栽培は結構難しく、大きな球体を何年も腐らせずに栽培するのは結構大変です。水のやりすぎにも弱いのですが、水が少な過ぎても根が全部無くなり、やがて腐ってしまいます。温室で冬に温度をかけても、夏に工夫してかなり涼しくしても、弱るときには急に弱り(球体の色が変わったら危険信号)、やがて急に腐り始めます。花を咲かせて種を取り(2本の角のある朔果ができ、取りまきすると良く発芽します)、実生で更新して維持するのが良いのかもしれません。
シュードリトス・スファエリクム(Pseudolithos sphaericum (syn. Pseudolithos migiurtinus)) シュードリトス・スファエリクム(Pseudolithos sphaericum (syn. Pseudolithos migiurtinus)) シュードリトス・スファエリクム(Pseudolithos sphaericum (syn. Pseudolithos migiurtinus))
 大きくならずに想像を超えた形態変化をするのが、下の写真のケイリドプシス・翔鳳(しょうほう)(Cheiridopsis peculiaris)です。3枚の写真は全て同じ植物の季節変化です。左が春に開花したときの写真です。2枚の葉の中から、2つの芽のようなものが出ていますが、右が新芽で左が花芽と、左右で必ず違います。二つに増えようとしているのではないのです。やがて花が終わると、左側の芽を残して全て夏には枯れてしまいます。やがて、水やりを中止すると左側の芽の先端から少し出ている新葉以外はすべて枯れてしまい休眠します。初秋には真ん中の写真のような状態になり、生育を再開します。この状態は、細長い白っぽい石が立っているような感じです。やがて、右端のように、新葉が展開し、やがて、冬になるとその中心から左の写真のように2つの役割分担をした芽が伸びだします。このようになかなか増殖はしませんが、形態変化のリズムに合わせて水やりをすれば、それぼと栽培は難しいほうではありません。
ケイリドプシス 翔鳳(Cheiridopsis peculiaris) ケイリドプシス 翔鳳(Cheiridopsis peculiaris) ケイリドプシス 翔鳳(Cheiridopsis peculiaris)

copyright (C) 1999 T. Hoshi
ホームに戻る