砂漠に生える植物と聞いて思い浮かべるのは、サボテンの仲間ではないでしょうか。しかし、サボテンのほかにも、たくさんの種類の乾燥に耐える植物があります。意外と知らない人が多いと思いますが、サボテンの仲間は、アメリカ大陸にしか自生していません。ですから、エジプトなどのアフリカ大陸やタクラマカン砂漠などのアジア大陸にはサボテンは自然には生えていません。だから、植物のことを知らない人は、エジプトのピラミッドの背景にサボテンを描いてしまうかもしれません。また、ラクダとサボテンという取り合わせも少し変です。
左の写真は、普通の植物のように見えますが、実は、サボテンの仲間です。モクキリン(Pereskia aculeata)と呼ばれていて、れっきとしたサボテンの仲間で、熱帯アメリカの高温多湿な地域の地面に生えています。半分つる草のように、樹木に寄りかかりながら、上に高く伸びていきます。これらの仲間を総称して、木の葉サボテンと呼びます。この他にも、サクラキリン(Pereskia bleo)というピンク色の美しい花を咲かせる長いとげを供えた種類も、日本でよく見かけます。
サボテンは乾燥に耐えるために表面積が大きく、水を失いやすい葉を無くしてしまいました。その代わりに、茎を葉のように発達させました。また、茎の節を発達させ、環境が悪くなっても、節ごとの影響にとどめて、全体が枯れることを防いだり、節ごとに根を出して、株を更新したりできるようになっています。これを茎節(けいせつ)と呼びます。サボテンの祖先が、茎節を肥大させて厚くして水を貯蔵し、乾燥に耐えるようになったのが、右の写真のウチワサボテンの仲間です。オプンチア(御鏡、Opuntia robusta)と呼ばれていて、乾燥に強くなっています。右は、左の種類の若い茎節の写真です。若い茎節には、ちいさな葉が出ることからも、サボテンの茎節が葉のように見えますが、これが茎であることがわかります。この小さな葉は、すぐに落ちてしまいます。このような性質から、柱サボテンよりも原始的な形態のサボテンと考えられています。ウチワサボテンは乾燥地帯の家畜の食料などに改良されて使われています。ウチワサボテンの仲間には、鋭いとげや芒刺(ぼうし)とよばれる毛のように細かいたくさんのかぎとげがあり、触れたり、そこを通り過ぎる動物を苦しめます。バニーカクタスとよばる金烏帽子とよばれるサボテンは、見かけはきれいで、よく鉢物などで市販されていますが、芒刺をたくさん持っていて、皮膚のやわらかい場所にうっかり触れると無数の芒刺が皮膚に突き刺さり、チクチクして大変つらいので触るときには用心したほうが良いでしょう。最近では、チクチクしないように改良された品種もあります。いずれにしても、ウチワサボテンが簡単に育つような環境の土地では、駆除の大変な雑草で、大変困っているそうです。
多湿な森の木の上に上って、姿を変えたのが、森林サボテンと呼ばれる仲間です。しかし、これらは、前で述べたウチワサボテンの仲間ではなく、いわゆる一般の柱サボテンの仲間なのです。着生ランも、木の上や岩の上に育ちます。このような環境は、根の周りがいつも湿っていることは難しく、雨や霧から全身を使って水分を補給します。地上よりは乾燥しているので、サボテンは乾燥に耐えるために水を失いやすい葉を無くし、茎節を発達させました。下の写真は、そのようなサボテンの仲間です。左は、リプサリス(Ripsalis sp.)と呼ばれる仲間のサボテンです。白い小さな花が咲きます。中央の2枚は、植物が好きな方なら良くご存知の月下美人(ゲッカビジン、Epiphyllum oxypetalum)というサボテンです。花の後ろから撮影するとこのように長く、口吻の長いガしか蜜が吸えないことがわかります。また、夜に咲くので、花粉を媒介する昆虫をひきつけるために香りが強い特徴があります。最近導入された系統では、花後に写真のような果実がなり、食用にできますが、それほどおいしいものではありません。右は、クリスマスカクタス(Schlumbergera cv. "Mary")といって、秋から冬にかけて鉢物として出回る美しい花を咲かせるブラジル原産の原種を品種改良したサボテンです。写真を良く見ると茎節になっていることが良くわかります。これらの仲間は、空気の乾燥を好まず、また、強い光にも弱いなど、サボテンのイメージとはかけ離れた環境を好みます。これもサボテンなのです。
さらに乾燥が進むと、平べったい茎節の形では、体積(貯水容量)に対して表面積が大きく、表面から水分が失われてしまいます。このため、茎節は円筒状に変化していきます。これが、柱(ハシラ)サボテンの仲間です。西部劇の漫画などで有名な弁慶柱(サグアロサボテン、Carnegiea gigantia)や武倫柱(Pachycereus pringlei)などは、サボテンの絵を書きなさいといって、まず書くものではないでしょうか。これらは、その特徴が十分現れるまでには、高さが10m以上になりますので、一般の人が育てることは大変でしょう。円柱状の茎節をよく観察すると、たてにいくつものひだがついていることがわかります。これは、季節の変化に伴って、サボテン体内の水分量が変わってもしわがよったり、破裂したりしないように、アコーディオンのじゃばらのように、変形をうまくするための特徴です。そして、表面積は増えてしまいますが、ひだにすることで、日陰の部分を多くし、風によって冷却しやすくするラジエータの効果を高めるためでもあるようです。
さらに乾燥が進むと、もはや体積に対して最小の表面積を持つ形状、つまり、球形になるしかなくなります。これが、ハシラサボテンの高度乾燥適応種である球形サボテンの仲間になります。日本で特に有名なのが金鯱(キンシャチ、Echinocactus
grusonii)です。これは、親になるのが大変に遅いサボテンで、玉の直径40cm以上、年数にして種から30年以上育てなければ花を見ることはできません。写真の個体は、私が育てているものですが、種を播いてから10年ちょっとというところです。球形のサボテンはそれほど場所も取らずに、乾燥や寒さにも比較的強いので、園芸的にいろいろな種類が導入されたり品種改良されて育てられています。赤や黄色の太い美しいとげを観察するトゲサボテンの仲間では、エキノカクタス(Echinocactus)やフェロカクタス(Ferocactus)の仲間がポピュラーです。また、花が美しいものとしては、エビサボテン(Echinocereus)、ロビビア(Lobivia)などがあり、花の寿命は短い欠点がありますが、キラキラと輝く金属光沢の大変美しい花を一時に咲かせます。また、姿と花に趣があるものとしては、マミラリア(Mammillaria)、ツルビニカルプス(Turbinicarpus)、エピテランサ(Epithelantha)、メロカクタス(Melocactus)などがあります。
ビカカク(Echinocereus pentalophus)花がきれいで強健なサボテンの代表種で、大切にすると咲かない。花がないときには目立たない。 | セッコウ(Notocactus haselbergii)花の寿命が長く夜も閉じない。水のやりすぎにも強く、こぼれ種で子供が増える。初めて育ててみるならばこれ。 | ギンオウギョク(Neoprteria nidus)チリ原産の少し育てにくいサボテン。春先にとげの中から出る花は蛍光ピンクで印象的。 | ロビビオプシスの一品種(Lobiviopsis cvs.)ロビビアとエキノプシスとの交雑による品種。大輪で色が豊富だか、一日の花命のものが多い。 |
カグヤヒメ(Epithelantha micromeris)白い綿毛と赤い果実が魅力的な群生サボテン。 | ヒメハルボシ(Mammillaria humboldtii var. caespitosa)白系マミラリアと呼ばれている一群。かわいい姿が人気。 | バラマル(Turbinicarpus valdezianus)小型で姿と花が良い。通称ツルビニと呼ばれている一群のひとつ。 | ヒボタンニシキ(Gymnocalycium mihanovichii var. friedrichi cv."Hibotan")日本で品種改良された美しい斑入りのサボテン。 |
一方、サボテンなのに変わった形の一群があります。これは、趣味家にとても人気が高い仲間です。ひとつは、有星類とよばれるとげのない優美な形をした仲間で、もうひとつは、ボタン類とよばれるイボが発達した花のような形の仲間です。この仲間は、成育が遅いものが多く、原産地では絶滅に瀕しており、違法な輸入で摘発されたりするのも、この仲間です。
有星類の代表であるカブト(Astrophytum asterias)です。王侯貴族のかぶる冠のようなサボテンです。愛好家は、白点の入り方、星の盛り上がり方などで細かく評価して、投機的な金額がつくことさえあります。 | ボタン類の花牡丹(Ariocarpus furfurceus)イボの形や綿毛、そして秋に咲く花の魅力は、はまりこむと何株でもコレクションしたくなるそうです。原産地では、岩陰などの土に埋もれていて初心者には見つからないそうです。 | 黒牡丹(Roseocactus kotschoubeyanus)爪のような形で花も美しい。成長は遅く、順調に育っても一年でたった数mmしか大きくならない。地下に大きなカブ状根がある。 |
一方、サボテンのように見えて、サボテンの仲間ではないものに、たとえば、次のようなものがあります。このほかにも「石になった植物」のページにサボテンでない植物が掲載されています。サボテン科の植物を見分けるポイントは唯一つ、刺座(しざ)を持つことです。サボテンに生えているとげ、または、とげの生えるべき場所の元には、刺座と呼ばれる毛を密生したクッションがあることです。たとえ、トゲのある植物でも、そのとげの根元に刺座がなければ、それはサボテン科の植物ではないことになります。そうはいっても、かなり退化していて見分けがつきにくいものもあります。
ハナキリン(Euphorbia milii cvs.)よく、サボテンと一緒に売られていますが、トウダイグサ科の植物で、ポインセチアの仲間です。 | オーロラ(Sedum rubrotinctum cv."Aurora")多肉植物ですが、サボテンではありません。ベンケイソウ科の植物です。 | シバの女王の玉櫛(Pachypodium densiflorum)とげがあって、いかにもサボテンのようですが、違います。キョウチクトウ科の植物です。 | リトプス(Lithops sp.)これも、アフリカの砂漠に生える多肉植物ですが、サボテンではなく、ツルナ科(ザクロソウ科)の植物です。 |
最後に、サボテンは何でサボテンと呼ぶのでしょうか。漢字で書くと仙人掌で、これは当て字で読みとは関係ありません。大きなハシラサボテンが枝分かれして手のひらのような形になっているところから、この漢字が当てられたのでしょうか。サボテンの語源は、昔、ウチワサボテン仲間の茎節を切って、切り口から出る汁で油汚れを落とすのに使ったので、同じ機能を持つ石鹸の語源であるサボンやシャボンが転じてサボテンになったという説が有力です。人によっては、サボテンをシャボテンと訛って呼んでいる人もいます。