動く植物


 動く植物という言葉は、この分野の先駆的研究者である東北大学名誉教授の柴岡孝雄氏が、「筋収縮その他のように興奮(活動電位)によって起こる現象(興奮ー収縮連関)と同じように運動の前に活動電位の発生がある速い運動を示す植物」をそう呼んだのが最初です。ここでは、動く植物のいくつかを紹介してみたいと思います。
スティリディウム属トリガープラント(Stylidium caespitosum)
スティリディウム属トリガープラント(Stylidium caespitosum)
スティリディウム属(Stylidium caespitosum)
スティリディウム属トリガープラント(Stylidium caespitosum)
スティリディウム属トリガープラント(Stylidium debile)
スティリディウム属(Stylidium debile)
 X型の可憐な花を咲かせている植物は、オーストラリア原産のスティリディウム属(Stylidium sp.)に属していて、俗に「トリガープラント(引き金植物)」と呼ばれています。この花は、おしべとめしべが一緒になった蕊柱(ずいちゅう)という構造を持っています。写真のように、通常の状態では、蕊柱が花の横下に垂れ下がっている状態です。ところが、虫などが蕊柱の付け根(花の中心部)を刺激すると、目にも留まらぬ速さで270度蕊柱が回転します。時間にして0.1秒程度ではないでしょうか(リンクをクリックすると動画が見られます。Windows Media Player 9用、サイズ148kB、4秒)。もちろん、指や虫もそれから逃れるだけのスピードはありませんので、蕊柱の直撃を受けます。異なった花でこれを何回か繰り返せば、受粉が成立するわけです。
 しかも、驚くべき事に数分経つと、ゆっくり蕊柱が元の位置に戻り、何回でも、このすばやい運動が行えます。運動の速さとしては、この植物かムジナモが種子植物で一二を争うでしょう。花の大きさは長辺が1cm位と小さいのですが、大変興味深い植物です。運動は温度、光、内生リズムのどれかに影響されているようで、朝方や夕方、夜には運動をしなくなるか、速度や回転角度が小さくなってしまいます。送粉してくれる虫が訪問する時間帯に運動を合わせているのですから、合理的といえるでしょう。
 早春に鹿沼土単用で鉢植えにし、水を切らさないように日当たりのよいところで栽培します。寒さには比較的強いのですが、0℃以下にしないほうがよいと思います。5月ごろに開花し、株分けで増やします。また、肥料は、早春の植え替え時に発酵固形油粕を少量与える程度で、ほとんど無肥料のほうが安全です。
下の写真をクリックすると動画が見られます。
(Windows Media Player 9用、サイズ148kB、4秒)
スティリディウム属トリガープラント(Stylidium caespitosum) ずい柱の運動の様子
 次は、ご存知の方も多い、オジギソウ(Mimosa pudica)です。マメ科の熱帯アメリカ原産の植物です。種から簡単に育てることが出来て、ピンク色のポンポンのようなかわいい花を咲かせます。ただ、茎に鋭いかぎ刺があるので、調子に乗って触りすぎで怪我をする子供がいるので注意が必要です。オジギソウは、葉に接触したり、明暗、寒冷温熱の刺激を与えると葉軸を中心にして上向きに葉をたたみ、さらに、葉柄から複葉が下向き(背軸側)に折れ曲がってしまいます。クリックすると動画が見られます(Windows Media Player 9用、サイズ110kB、4秒)。刺激は他の葉まで伝播しますが、通常は茎の上方に向かってのみしか伝播しません。これらの運動は、電気信号と化学物質の二つの伝達メカニズムのあることが調べられています。
オジギソウ(Mimosa pudica)
オジギソウ(Mimosa pudica)
オジギソウ(Mimosa pudica)
オジギソウの花
下の写真をクリックすると動画が見られます。
(Windows Media Player 9用、サイズ110kB、4秒)
オジギソウ(Mimosa pudica)

葉をたたむ前
 オジギソウが、なぜ葉をたたむのか、その真の理由は分かりません。しかし、原産地で動物がオジギソウを食べると、少し食べた刺激で葉を折りたたんでしまうので、もう食べ終わったような誤解を動物に与えます。このような工夫で、オジギソウは絶滅するのを防いできたのではないでしょうか。
 種子が市販されていますので、入手は簡単でしょう。5月ごろ9cmぐらいの植木鉢に5粒くらいの種子をまき、暖かいところで発芽させます。子葉が出たあと、くしの歯状の本葉(羽状複葉)が出て、活発な運動を観察できます。そのまま育ててもよいですが、大きくなってきたら花壇に植え込むと、よく成長します。肥料はほとんどやらないほうが、花が咲きやすいと思います。秋に、豆の莢が房なりになり、熟して茶色くなると種子がばらばらになって、ぽろぽろとこぼれます。これを保存しておくと、来年も楽しめます。しかし、自分で育てて採集した種は、乾燥地の植物特有の性質で、まいても一斉に発芽しません。その場合には、茶碗に入れ。上から90℃くらいの熱湯を注いで、そのまま冷えるのを待ってからまくと、よく発芽します。購入した種子は処理がしてありますので、その必要はありません。
オジギソウ(Mimosa pudica)
葉をたたんだ様子
オジギソウ(Mimosa pudica)  オジギソウは大変生命力の強い植物で、十分な温度さえあれば、左の写真のように、こぼれた種が道路のちょっとした溝でも芽を出し生長します。乾燥には強いようです。
 マメ科の仲間で、ほかに運動が知られているものとして、ミズオジキソウ(Neptunia oleracea)があります。タイなどの熱帯アジアでは、野菜として利用されています。オジギソウほど敏感ではないのですが、接触によってゆっくりと葉をたたみます。これは、水草で、茎が空気を含んで浮き袋のようになって、水面に浮かんで繁茂します。寒さには比較的弱いく、夏の水辺の観賞用として、日本でも初夏から夏に苗が時々市販されています。余談ですが、このように、条件によって植物体に浮き袋をつける植物の仲間ではユキノシタ科のルドヴィジアが知られています。水草のページを見てみてください。ミズオジギソウの仲間に、インド原産のオカミズオジギソウ(Neptunia triquetra)があります。右の写真のように、ミズオジギソウと同様に黄色い花を咲かせます。沖縄県では帰化植物になって野生化しています。これも触るとゆっくり葉をたたみます。
オカミズオジギソウ(Neptunia triquetra)
オカミズオジギソウ、触るとゆっくり葉をたたむ。
マツバボタン(Portulaca glandiflora)
マツバボタンのオシベ(矢印)を触ると運動する
 左上のオジギソウの写真に一緒に写っているマツバボタン(Portulaca gradiflora)の花のおしべも運動をすることが知られています。マツバボタンの花が咲いていたら、左の写真の矢印で示したおしべをようじなどて触ってみてください。もぞもぞと動くのが観察できます。やってきた昆虫などに花粉がつきやすくしているのではないかと思われます。
 一方、めしべが運動するものとしては、ハナウリグサ(トレニア、Trenia fornieri)が知られています。右の写真の中央に見える先端が二股に開いためしべに触れると、見る間に閉じてしまいます。まるで、受粉した花粉を逃さないようにしているかのようです。
 比較的変わったものとして、オジギソウと反対側に葉をたたむ植物として、カタバミ科のオサバフウロの仲間があります。下左2枚の写真は、コダチオサバフウロ(Biophytum dendoroides)です。これは、触るとゆっくりと葉をたたみます。もっと運動が活発なものに、下右の写真のオサバフウロ(Biophytum sensitivum)があり、黄色い花を咲かせます。クリックすると動画が見られます(Windows Media Player 9用、サイズ448kB、5秒)。中国では感応草と呼んでいます。種子はあまり市販されていませんが、熱帯地方では雑草化している植物です。温室などでは、カタバミの様に種を飛ばすので、いろいろな所に勝手に生えて始末に悪い植物です。もし、オサバフウロの種子を入手したら、できるだけ高温(最低でも25℃以上)で発芽させることが栽培のコツのようです。
 オジギソウのように接触で葉をたたむ植物はいろいろと知られていますが、オジキソウを超えるような敏感、かつ、高速な運動をする種類は無いようです。オジキソウの種や苗は良く市販されていて、入手が容易ですが、それ以外の種類を日本で入手しようとすると困難なのは、栽培に苦労する割には面白みが少ないからなのでしょう。
トレニアの花(Trenia cv. 'Fancy Moon BLue')
トレニアのめしべ(中央の白い二股に分かれた部分)を触ると閉じる
コダチオサバフウロ(Biophytum dendoroides)
コダチオサバフウロ(Biophytum dendoroides)
下の写真をクリックすると動画が見られます(Windows Media Player 9用、サイズ247kB、5秒)。
コダチオサバフウロ(Biophytum dendoroides)
コダチオサバフウの葉をたたんだ様子
下の写真をクリックすると動画が見られます(Windows Media Player 9用、サイズ448kB、5秒)。
オサバフウロ(Biophytum sensitivum)
オサバフウロ(Biophytum sensitivum)
下の写真をクリックすると動画が見られます(Windows Media Player 9用、サイズ448kB、5秒)。
オサバフウロ(Biophytum sensitivum)
オサバフウロ(Biophytum sensitivum)
マイハギ(Codariocalyx motorius (旧名 Desmodium motorium))
マイハギ(Codariocalyx motorius (旧名 Desmodium motorium))
下の写真をクリックすると動画が見られます。
(MPEG2、サイズ14MB、54秒)
マイハギ(Codariocalyx motorius (旧名 Desmodium motorium))
側小葉(矢印)が振動や旋回する>

 このほかに、動きが有名な植物としては、マメ科のマイハギ(Codariocalyx motorius (旧名 Desmodium motorium))があります。これは、気温が高くなると側小葉(大きな葉の付け根にある小さな葉)が振動または、回転運動します(クリックすると動画が見られます(Windows Media Player 9用、サイズ264kB、8秒))。左の動画は、時間を1/10に縮めています。もし、実際の速度の動画を見たい場合には、ここをクリックしてください(Windows Media Player 9用、サイズ2.18MB、1分23秒)。別の動画(MPEG2、サイズ14MB、54秒)もあります。Wilhelm Pfeffer氏によれば、35℃で90秒の周期を観察しています。気温が22℃以上になると運動を確認でき、30℃程度で、光の強い炎天下で最も運動が盛んになるそうです。運動は、細胞の水の移動によって生じ、運動中にはその部分の電位(電圧)が変化することはわかっています(Jagadis Bose氏による)が、なぜ、このような自発的な運動が起きるのか、その理由は全く不明です。中国昆明地方に伝えられている話によると、この植物の側で歌を歌いながら舞うと、その空気振動で歌に合わせて回転運動の周期が一致して、まるで葉が舞っているように見えるとのことです。確かに、この植物の近くで急に拍手をしたりすると、拍手の音波が刺激になって、一斉にいくつかの小葉が運動するのが確認できます。ただ、超能力があるとか、音楽を理解するというのは、いささか神秘主義的な誇張だと思います。上の右の写真は、晩秋の短日条件で開花する、マイハギの花と、若い果実です。私のところで栽培しているものはピンク色の花色ですが、オレンジ色の花が咲く系統もあるようです。マメ科の植物なので、莢果になり、熟すと褐色になってツヤのある数mmの扁平な種子をこぼします。高温と太陽の光が好きな植物で、暑く光が強いほど良く動きます。また、乾燥にはとても弱いので、水切れさせないように乾きやすい真夏の潅水には注意が必要です。心配ならば、夏の乾燥時には明るい日陰で管理すると良いかもしれません。マイハギは淡路花博をきっかけに大量に日本で流通しましたが、今はすっかり下火です。やはり、小さな側小葉しか運動せず、かなりの高温を好むというところが、あまり好まれなかったみたいです。
 さらに、食虫植物の仲間では、ハエジゴクムジナモの運動が有名です。
マイハギの花
マイハギの花
マイハギの実生苗
マイハギの実生苗
マイハギ(Codariocalyx motorius (旧名 Desmodium motorium))
マイハギの花と豆果


copyright (C) 1999 T. Hoshi
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