「花」という言葉から、皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか。また、紙とペンを渡して、「花」を書いてくださいといったら、どんな花を描くでしょうか。多分、丸を描いてから、その周りに花びらを4〜5枚描いたり、Uの字を書いて上にギザギザを付けたチューリップを描いたりするのではないでしょうか。植物が咲かせる花の中には、このような一般的な形を持つものだけでなく、何かに似た形の花を咲かせたり、変わった形の花を咲かせるものもあります。ここでは、そういう変わった形の花の一部を紹介したいと思います。 |
ハートカズラ(Ceropegia woodii) |
左の写真には花が写っています。青い矢印で示したものが花です。これは、ハートカズラ(Ceropegia woodii、カガイモ科)という吊鉢などで栽培されている観賞植物です。ハート型の葉が可愛く、外国でもラブ・チェーンなどと呼ばれています。しかし、花の形は名前とはうらはらにグロテスクな感じで、長さ2〜3cmの暗桃色の元が膨らんだ筒状で、先端は黒褐色で毛が密生しています。この仲間の花は、ハエなどが中に入り込んで受粉する仕掛けになっているものが多く、動物の傷口などを想像させる毛や不思議な形の附属器が付いていたり、腐った肉の匂いを漂わせるものなどがあります。 |
ドルステニア・フォエティダ(Dorstenia foetida) |
左右の写真は、どちらもクワ科の植物です。左は、ドルステニア・フォエティダ(Dorstenia foetida)という、アラビア原産の植物です。緑色をしたヒトデのような、仏様の光輪のような形をしたものが花(花序)です。本当の花は中心部分のぷつぷつしたものの一つ一つです。茎が肥大する多肉植物として日本でも栽培されていて、「栽培中に変な形をしたヒドデのようなものが出てきましたが、これは何ですか?」という質問を園芸コーナーにする人を時々見かけるくらい、花に見えないような花を咲かせます。他にも、三日月の形をした花をつける種などもあります。右は、皆さんお馴染みのイチジクです。イチジクは、無花果と漢字で書くように、花を咲かせた形跡が無いのに、いつのまにか実が付いてしまうように見える植物です。イチジクの若い実のように見えるものを花嚢(かのう)といって、その内側に多数の花が咲いているのです(陰頭花序)。もともとは、昆虫(胡蜂)が、花嚢の中に生息していて、それが花粉を運んでいましたが、日本で栽培される品種は、雌花ばかりを咲かせて受粉しなくても単為結果するようになっています。 |
イチジク、品種カドタ(Ficus carica cv. "Kadota") |
ラン科植物には、面白い形をした花をつける仲間がたくさんいます。特に、ブルボフィルム(Bulbophyllum)属とキルホペタルム(Cirrphopetarum)属には変な形の花を咲かせるものが多いです。右の2枚の写真は、キルホペタルムの栽培品種(Cirrphopetarum Elizabeth Ann "Backleberry")です。花弁がひげのように20cm程度下垂します。中心部を拡大したものが、その右です。複雑で変わった色彩をしています。ピンク色をした舌のような形をしたものを唇弁(しんべん)と呼びます。この仲間は、この唇弁の付け根が蝶番のようになっていて、わずかな風で上下にピクピク動きます。虫の注意をひきつけるためでしょうか?、その理由はわかりません。 下の左は、ラン科のオンキディウム(Oncidium、オンシジューム)属の花です。スズメランという和名がつけられていますが、英名のダンシング・レディ(踊る貴婦人)のほうがふさわしい名前だと思います。左の写真を見てください、冠をかぶって、パーティドレスに身を包んでいる人の姿にそっくりだと思いませんか。下中央は、オンキディウムに近縁のブラッシアの1品種(Brassia Eternal Wind "Summer Dream")です。これは、花の形が蜘蛛に良く似ているので、俗にクモラン(この和名を正式に持つ別の植物がある)と呼ばれることもあるくらいです。ジョロウグモのような花ですね。 右下の写真は、キクノチェス・クロロキロン(ventricosum var. chrorochillon)という、ベネズエラ〜コロンビア原産のラン科植物です。スワン・オーキッドと呼ばれるように、白鳥の姿に大変良く似た、緑白色の清楚な花を夏に咲かせます。 |
Cirr. Elizabeth Ann "Backleberry" |
Cirr. Elizabeth Ann "Backleberry" |
Onc. Sweet Sugar "Angel" |
Brassia Eternal Wind "Summer Dream" |
Cyc. ventricosum var. chrorochillon |
キンギョソウ(Antirrhinum majus cvs.) |
英名でスナップ・ドラゴン(噛みつき竜)と呼ばれる花があります。日本では、キンギョソウ(Linaria maroccana cvs.)と呼ばれるゴマノハグサ科の植物です。日本にもウンラン(Linaria japonica)と呼ばれる近縁種が自生しています。左の写真を見ると、なんとなくランチュウのひらひらした金魚に似てなくもありません。しかし、この花の本当に面白いところは、噛みつき竜のところです。下の花弁(唇弁)を指で軽くつまんで引っ張ると、まるでブルドックが噛みつこうとして口を開けるように、パクッと花(唇弁)が開きます。本当に噛みつきそうな感じで、うまい命名だなと思います。口の中にはおしべとめしべがあり、昆虫が訪れるまで閉じて保護していて、昆虫が止まると重みで開いて送粉してもらおうという仕組みです。属は違いますが、花壇で雑草化するほど丈夫な春の花である右のヒメキンギョソウ(Linaria maroccana cvs.)も同じ構造の花を咲かせます。子供に教えてあげると、面白がって遊んでくれるでしょう。 |
ヒメキンギョソウ(Linaria maroccana cvs.) |
ベニウチワ(Anthurium andreanum cvs.) |
サトイモ科の植物は、花が集まって穂のような形をした肉穂花序(にくすいかじょ)という構造の花をつけます。そして、花序の基部には特別な苞葉が付きます。この苞葉を仏炎苞(ぶつえんほう)と呼びます。本来の花である肉穂花序よりも仏炎苞の方が目立つ種も多いです。例えば、サトイモ科のミズバショウ(Lysichiton camtschatcense)の花の色を白と感じるのは、実は目立つ仏炎苞の色なのです。左の写真は、切花などでお馴染みのアンスリウム(Anthurium andreanum cvs.)です。これも、仏炎苞に観賞価値があるので、赤色のアンスリウムとか、白色のアンスリウムと呼ぶのです。 右側は、地中海地方原産のアルム・イタリカム(Arum italicum)です。葉に白斑が入るものが普通ですが、写真は入らない品種です。花の形からサトイモ科の植物であると分かりますよね。花が咲いた後、写真上のような赤い実がなります。実のなる位置で、棒状の部分が花だったことが分かります。 |
アルム・イタリカム(Arum italicum) |
ポインセチア(Euphorbia pulcherrima cvs.) |
サイトモ科と同様に苞葉の目立つ花を持つ植物の多いのが、トウダイグサ科の植物です。左は、メキシコ原産のトウダイグサ科のポインセチア(Euphorbia pulcherrima cvs.)です。苞葉と葉の色がクリスマスカラーなので、クリスマスの花という印象が強いですね。でも新大陸の植物なので昔は知られておらず、クリスマスの花として定着したのはそれほど古いことではありません。写真の赤や白に見える部分は苞葉で、本当の花は、真ん中の黄色い色をしている部分です。黄色い杯型をした器官の中に花が入っているので、杯状花序(はいじょうかじょ)と呼ばれます。 右の写真は、苞葉が2枚出るトウダイグサ科のコスタリカ原産のダレカムピア属の花(Dalechampia dioscoreifolia)です。やはり、ポインセチアと同じような感じの花です。2枚の苞葉が蝶の羽のように見えるので、バタフライ・バイン(蝶の蔓草)という英名で呼ばれています。ブルーバタフライという名前で、日本でも最近販売されるようになりました。 |
ダレカムピア(Dalechampia dioscoreifolia) |
様々な色彩や変わった形の花を咲かせる仲間が多いものにアヤメ科があります。右の写真は、南アフリカ原産のゲイッソリーザ属の一種で、昔はロケンシス(Geissorhiza rochensis)と呼ばれていたラディアンス種(Geissorhiza radians)です。ワイン・カップという英名のように、ちょうどワイングラスに赤ワインが入っているようなちょっと変わった色合いの花を咲かせる小球根植物です。その下は、同じくアヤメ科のチグリディア(Tigridia pavonia cvs.)と呼ばれるメキシコ原産の植物で、3枚の花弁と中央のトラ模様が目立つ、春植えの球根植物です。和名は、トラ模様の斑紋から、トラユリとかトラフユリとか呼ばれています。その右側の植物は、キョウチクトウ科のストロファンツスの一種(Strophanthus preussii)です。花の先が20cm位伸びて下垂し、奇観を呈します。このストロファンツスの仲間は有毒植物が多く、矢毒として用いられる種類もあるそうです。 下の3枚の写真も、変わった形の花です。左は、高山植物のコマクサと同じ仲間のケシ科のケマンソウ(Dicentra spectabilis)です。やはり、つぼみの時には馬の顔に似ています。長い花茎に多数の花がぶら下がって咲くので、花を魚のタイに例えて、タイツリソウという別名もあります。中央は、スパイダーリリー(クモユリ)と呼ばれるヒガンパナ科のヒメノカリス属の植物(Hymenocallis caribaea var. variegata)です。クモヒドテのような形はグロテスクですが、良い香りを放ちます。写真は、斑入りの品種で観賞価値が高いものです。右は、ブラッシノキの仲間のハナマキ(Callistemon citrinus)で、オーストラリア原産のフトモモ科の植物です。まるで、ビンを洗うブラシのような形の花を春と秋に咲かせます。別名はキンポウジュ(金宝樹)と呼ばれていて、ブラシの先に花粉が出ると、それがちょうど金粉のように見えるところから名付けられたようです。このほかにも、ストレリチア(ゴクラクチョウカ、極楽鳥花)とよばれる鳥に似た花(美しい花を参照)や、パイプカズラ(実を結ぶための花の戦略を参照)など、別なページにも変わった花がありますので、探してみてください。 |
ゲイッソリーザ(Geissorhiza radians) チグリジア(Tigridia pavonia cvs.) |
ストロファンツス(Strophanthus preussii) |
ケマンソウ(Dicentra spectabilis) |
Hymenocallis caribaea var. variegata |
ハナマキ(Callistemon citrinus) |
ユキモチソウ(Arisaema sikokianum) |
左の花は、サトイモ科の日本産のテンナンショウの仲間であるユキモチソウ(Arisaema sikokianum)です。4〜5月に開花する花の中央にある肉穂花序がつきたてのお餅そっくりなので、この名前がつきました。地下に塊茎を持つ球根植物です。塊茎の増殖が悪いので、実生で繁殖します。右は、花とは思えず、まるで布か何かでできたアクセサリーのようですが、本物の花です。ハート型の葉を1枚ないし2枚、小さな鉢植えにして観葉植物として販売されているハートホヤ(Hoya kerrii)の花です。カガイモ科で、東南アジア原産です。ホヤの仲間は、変わった花を付けるものが多く、草姿も変化に富んでいるので、これだけをコレクションしている人もいます。 |
ハートホヤ(Hoya kerrii) |
ヒメノカリス・ゼイラニクム(Pancratium zeylanicum ) |
左の花は、ヒガンバナ科のスリランカ原産の鱗茎を持つ球根植物のヒメノカリス・ゼイラニクム(Pancratium zeylanicum )です。上述したスパイダーリリーのヒメノカリスの仲間として園芸的には扱われていますが、分類上はパンクラティウム属であるようです。花の寿命数日で短いのですが、雪の結晶のような美しい形をしていて、見る人を魅了します。右は、花火のような花を咲かせる、やはりヒガンバナ科の熱帯アフリカ原産の鱗茎を持つ球根植物です。その名も線香花火、センコウハナビ(Haemanthus multiflorus)です。花(花序)の直径は20cm位になり、開花時には見事です。両者とも、日本では4〜5月に開花することが多いようです。 |
センコウハナビ(Haemanthus multiflorus) |
チョウマメ(Clitoria ternatea) |
左の花は、日本では春まき一年草として扱われるマメ科のチョウマメ(Clitoria ternatea)です。本来は熱帯アジア産の熱帯植物といわれています。長さ5cm程度の青い色がとても綺麗な花です。写真を見るとわかるように、その花の形は女性の外部生殖器に似ています。このため、学名の属名もクリトリア(陰核)になっています。花の形がちょっとと思われる方には、八重咲きの品種もあります。右の花は、ヨーロッパ原産の種から改良したゴマノハグサ科のキンチャクソウ(Calceolaria x herbeohybrida)です。カルセオラリアという属名でも呼ばれています。その名の通り巾着そっくりの花を早春から春につけます。花の色も、黄色、オレンジ、赤などと派手で、春先に鉢物としてよく出回ります。ただ、暑さに弱いので、秋播き越年草として日本では扱います。 |
キンチャクソウ(Calceolaria x herbeohybrida) |
パラシュートプランツ(Ceropegia sandersonii) |
オステオスペルマム・ニンジャ(Osteospermum cv. 'Ninja') |
クロバナタシロイモ(Tacca chantrieri) |
上左の花は、落下傘そっくりの長さ5cm位の花を付かせるガガイモ科のパラシュートプランツ(Ceropegia sandersonii)というアフリカ原産のつる植物です。上で紹介したハートカズラの仲間です。ケロペギア属や、その上のガガイモ科の植物は、このように、とても奇妙な形の花をつけるものが多く、奇妙な植物が好きな人にとっては目の離せない一群です。上中の花は、南アフリカ原産のキク科のオステオスペルマム(Osteospermum cv. 'Ninja')です。花弁の途中がくびれ、風車のような手裏剣のような変わった形に咲く品種で、これは「ニンジャ」と名づけられています。夏の高温期にはくびれがなくなり普通の形に咲くことが多いようです。これに近い仲間にディモルフォテカ(デモルフォセカ)(Dimorphotheca cvs.)があり、これは一年草として種子で繁殖されることが多いですが、オステオスペルマムは多年草として挿し木で繁殖されることが多いです。上右は、気味の悪い目のぎょろっとした怪物がこちらをじっと見ているようなとても奇妙な花を咲かせる、熱帯産のサトイモ科の植物である、クロバナタシロイモ(Tacca chantrieri)です。通称、ブラックキャットという名前で園芸的には流通しています。目玉に相当する部分が花で、下に垂れているのは咲き終わった花です。それらの花序を包葉が包み、ひげ状の付属体が何本も出て、とても複雑な形をしています。おまけに色もえび茶色を帯びた黒色で、きれいというよりも、不気味な花です。この仲間には、食用に栽培しているものもあり、和名では田代芋という名前がつけられました。 |